辞書が選ぶ“今年のことば”で読み解く 2024年〜2025年の社会の変化
12月になると、世の中ではさまざまな「今年のまとめ」が発表されます。流行語大賞、今年の漢字、年間ランキング…。一年を振り返る言葉たちは、まるで「社会の鏡」のように、その年の空気を映し出します。
その中でも私が特に注目しているのが、『辞書編集部が選ぶ「今年の新語」』です。辞書を作るプロが、
「今年、生まれた言葉の中で、これからも残りそうなもの」
「社会の変化を象徴するもの」
を見極めて選ぶ、ひと味ちがう年末の総決算。
ここでは、2024年と2025年の辞書系アワード（三省堂・小学館『大辞泉』）が選んだ言葉を並べて、一年ごとの社会の変化を読み解いてみたいと思います。
■ 2024年 ― “感情を言語化する” 年
まずは、2024年に辞書編集部が選んだ言葉から振り返ってみましょう。
三省堂「今年の新語2024」で大賞に輝いたのは 「言語化」。
感じていることやモヤモヤした気持ち、説明しづらい考えを、あえて“言葉にして整理する”ことの重要性が、SNSを中心に広がった一年でした。
ベスト10には
「横転」「インプレ」「スキマバイト」「しごでき」「メロい」「公益通報」「PFAS」「インティマシーコーディネーター」「顔ない」
など、若者言葉から社会問題まで幅広いテーマが並び、現代の多様な価値観が浮かび上がります。
一方、小学館『大辞泉』の新語大賞2024は 「ホワイト案件」。
闇バイト対策として社会問題化した“安全そうに見える違法案件”を指す言葉が選ばれたことからも、ネット社会特有の危うさが顕著になった一年でした。
ほかにも
「フキハラ」「静かな退職」
といった、働き方や人間関係を巡る新しい価値観を表す言葉が目立ちました。
— 2024年は、“気持ちや社会の違和感を言葉にして可視化する年”だったと言えそうです。
■ 2025年 ― “見た目と価値観の多様性” が広がる年
続いて、2025年の辞書系アワードを見てみましょう。
三省堂「今年の新語2025」で大賞に選ばれたのは 「ビジュ」。
“visual（ビジュアル）”が短くなった言葉で、「雰囲気がよい」「まとまりがある」「見た目が素敵」といった広い意味を持ち、アイドルやファッションだけでなく、子どもやペット、食べ物などにも使われる“褒めことば”として浸透しました。
その他のベスト10には
「オールドメディア」「えっほえっほ」「しゃばい」「権力勾配」「男消し」「共連れ」「体験格差」「夏詣」「緊急銃猟」
など、ネット文化、社会構造、季節の新習慣、地域の課題まで、幅広い“今”を表す語が並びます。
また、小学館『大辞泉』の新語大賞2025には 「緊急銃猟」 が選ばれました。
野生動物との共存や地域安全の課題が深刻化している背景を映し、社会の変化が“新しい言葉”として姿を現した一年でした。
— 2025年は、見た目・体験・文化の多様化がより強調され、地域課題や社会構造への関心も高まった年といえます。
■ 2024年と2025年を並べてみると…
辞書が選んだ代表的な言葉を並べると、違いがよりはっきりします。
2024年（昨年）
- 言語化（大賞）
- 横転
- インプレ
- スキマバイト
- しごでき
- メロい
- 公益通報
- PFAS
- インティマシーコーディネーター
- 顔ない
- ホワイト案件（大辞泉大賞）
- フキハラ
- 静かな退職
2025年（今年）
- ビジュ（大賞）
- オールドメディア
- えっほえっほ
- しゃばい
- 権力勾配
- 男消し
- 共連れ
- 体験格差
- 夏詣
- 緊急銃猟（大辞泉大賞）
こうしてみると、
2024年 → 人の気持ち・違和感・社会問題の“内側”を言葉にする年
2025年 → 見た目・価値観・地域課題など“外側の変化”を取り込む年
という傾向が見えてきます。
■ まとめ ― 言葉は社会の“記録”として残っていく
辞書編集部が選ぶ「今年の新語」は、単なる流行語とは違い、
“今の社会をどのように記録するか”
という視点で選ばれています。
2024年は「言語化」に象徴されるように、モヤモヤを整理したり、SNS社会の危うさを見つめ直す動きが強い一年。
そして2025年は「ビジュ」「緊急銃猟」に見られるように、多様な価値観や地域課題、見た目の文化など、社会の広がりを映し出した一年。
言葉は、時代とともに生まれ、変化し、時に消えていきます。
その中で辞書に残る可能性のある語が選ばれることで、未来の人が「2020年代にはこんな価値観があったのか」と理解する手がかりにもなるでしょう。
年末、身の回りにあふれる「今年のまとめ」の中で、
辞書が選ぶ“ことばの記録” に触れてみると、社会の変化がより鮮やかに見えてくるはずです。
個人的には、聞いたことがない、意味を知らないという言葉もありますが、世の中でと変われている言葉を知ると時代の世相を知る手掛かりになりますね。
それぞれの言葉の意味をぜひ調べてみて下さいね。
大辞泉が選ぶ新語大賞2025 https://daijisen.jp/shingo/
三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2025」https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/shingo/2025/
